全社員へ2025年08月06日

規模拡大を追求するなら、店長を徹底して鍛えろ

「ステーキのあさくま」や食べ放題レストラン、居酒屋、カフェ、定食業態まで、さまざまな業態の出店や撤退を経験してきた森下社長。そんな社長に多店舗展開の戦い方、個人店の戦い方を語っていただいた。

多店舗展開の成功を左右する「人」の問題 

多店舗展開と一口に言っても、その規模は様々だ。ここでは20~50店舗程度の展開を想定して話を進めていきたい。なぜなら、3~5店規模はたしかに複数店舗ではあるけれど、社長が現場を駆け回ることで気合で運営できてしまう規模だから。しかし20店舗以上となれば、組織を作り、システム化して運営することが求められる。 

 そこで課題となるのが人の問題だ。「あさくま」や「テンポス」を合わせて100店舗以上を出店してきて分かることは、店の業績が悪いとき、その原因の9割は店長にあるということだ。能力が高くても「意欲」がない店長の店は数値が悪い。最初は意欲的でも、だんだんと意欲がなくなっていく店長の店もまた、じわじわと業績を悪化させていく。じゃぁ、意欲って何かというと、例えば、物が取りにくいなと思ったらすぐに場所を変えたり、POPの角がはがれていたらササっと直して、しかもお客の目線の高さに貼りなおしたり、何をするにも余分なことをする人を、ここでは「意欲的」といっている。一方で、意欲のない店長というのは、腐った料理を出すとか、適当な接客をするとか、そんな態度をだすわけではない。ただ、淡々と仕事をこなす、普通に真面目な店長たちだ。でも何か腰を入れて頑張るわけでない。そんな普通に意欲のない人達が店を潰す! 

店長はマネジメント能力も大事だが、ありとあらゆるところで気が利いて、そして小さな改善をしていくような人材ではないといけない。それができない人は降格させたり、異動させて人を入れ替えていく必要がある。だからといって、ものすごく改善ができる人材でなくたっていいんだよ。多店舗経営ではある程度、組織や、儲かる仕組みができあがっているから、店長たちはちょっと工夫・改善するだけで、簡単に数値がよくなるものだから。 

 あさくまグループでも、こんなことがあった。 

モツ居酒屋「エビス参」の8店舗を統括していたエリアマネージャーの業績が悪いことから、降格させることになった。その時、本人から「赤字店舗の店長をやらせてほしい」と言ってきたので、任せることにしたんだ。するとその3か月後には黒字化し、さらに3カ月後には前年対比で2~3倍の利益を生み出す店舗へと成長させた。彼はエリアマネージャーとしては不適任だったかもしれないが、店舗運営を任せたら業績を倍にしてしまう有能な男だった。本人も今の仕事にやりがいを感じているようだったから、立て直した店は別の人に任せて、彼には他の店舗のテコ入れを担当してもらうことにした。3店舗ぐらいの立て直しをやってノウハウを身に着けてもらったら、次は出店の責任者を任せたいと話しているところだ。 

このご時世、良い人材は取り合いだから、“良い人”なんて入ってこないよ。だから、今いる人で会社を回していくしかない。そのためにも、芽のある人にはどんどん任せてみる。もし、うまくいかなかったら異動させて、また別のことをやらせてみる。そこでうまくいったら、その道のステップアップを応援していく。そんな風に、今いる人を育てたり、発掘したりしながら、会社を発展させていくものなんだ。 

変革が求められるとき 

多店舗展開を進めていく中で、うまくいかなくなるタイミングは必ず訪れる。それに備えるためには、さっき話したような、自分以外で店を立て直せる人材を育てておくこと。また、経営危機が訪れたときには、今までのやり方を大きく変える、ビジネスや組織を変革させることが求められていく。 

 テンポスが「ステーキのあさくま」を買収したのは2006年。当時、テンポスは単なる中古厨房販売から、飲食店経営支援ができる企業への転換を図ろうとしていた。そのため、飲食店のノウハウを学ぶ目的で「あさくま」を買収した。その頃のあさくまは、店舗数が180から30店にまで縮小し、借金も膨れ上がり崩壊寸前。給与はレジ金をかき集めて支払わざるを得ない状況だった。 

 問題が山積みの中、飲食店経営の素人だったテンポスは、何が問題なのか分からないのが課題だった。いろんな手を打ったよ。その中でもよかったのがサラダバーの導入だった。俺はもともと田舎者だから、ステーキの価格に無料でサラダや総菜が食い放題だったら、お客さんが喜ぶんじゃないかと思ってね。当時31店舗のうち7店舗くらいしかだしていなかったサラダバーを全店で提供することにした。あさくまは、晴れの日使いで180店舗まで大きくなっていった会社だから、食べ放題に力を入れるのは、今までのあさくまではなくなるようで、スタッフは内心戸惑っていただろう。しかし時代は変わり、お客が求めていることも変わった。それに適応できなければ、会社は生き残れない。だから、サラダバーを導入するときは、普通のステーキ店のサラダバーが5種類程に対し、あさくまでは15品にして、子供向けにソフトクリームもつけたりして、競合の中で一番のサラダバーを目指した。結果的に、これがお客さんに喜んでもらえて業績の回復につながっていった。 

 一方で、従業員の人件費率や、人時生産性(1人の従業員が対応する客数)を指標にし、従業員がフル活動しているか、店長会議で徹底的に追いかけるようにした。従業員が過剰で赤字の店には「お前、店を潰すきかー!」とかやりながら、お客さんに喜んでもらう店づくりに取り組んでいった。長らくボーナスも支給できなかったが、利益が少しずつあがり、あさくまが低迷していたときからずっと支えてくれていた従業員に手渡しでボーナスを渡して感謝を伝えた。そんなことをしている中で、買収当時30億円だった売り上げは90億を超え2019年に上場を果たした。 

こんな風に、多店舗展開する中で、うまくいかないことはたくさんでてくる。その時は、人を入れ替えたり、時には仕組みを大きく変えて、正解がない中でも、明日に向かって手を打ち続けることが大事なんだ。 

多店舗経営が、個人飲食店に負けるとき 

多店舗展開では、店長の意欲が大事だと話をしたが、一方で「組織の力」で売上を大きく伸ばすこともできる。例えば、優秀な販促担当や、優秀な人事担当が一人いるだけで、50店舗、100店舗の売上をアップさせてしまうこともできる。だから、良い人材がいるなら、そのメリットを最大限に活かせる規模まで拡大しないともったいない。当社グループの「ヤマトサカナ」では優秀な商品開発者がいるにもかかわらず、寿司のテイクアウト店舗が10店舗にとどまっている。これは非常にもったいない。今後は、20店舗、50店舗と拡大し、多店舗展開の醍醐味を最大限に生かしていきたいと思っている。 

その他にも多店舗展開するメリットとして、不動産交渉力の向上も挙げられるだろう。店舗数が増えるほど、物件情報がたくさん入るようになってくる。だから、不動産会社にむちゃくちゃな要求をしたとしても、変わらず情報をどんどん提供してくれるし、「条件にあう物件がでましたよ」と連絡をくれるものだ。でも、個人店がむちゃくちゃな要求をしたら、もう二度と物件情報を出してくれなくなるよ。 

こんなメリットの多い多店舗展開だが、恐いのは「極めた個人店」には負けてしまうことだ。普通の店長が普通に頑張るチェーン店は、オーナーが店に立ち、何においても極めようと情熱を注いでいる個人店には勝てない。でも、これは逆の立場でも言えて、個人店の店主が普通に努力するだけでは、資金力や組織力のある企業には適わない。個人で戦っていくなら、日本で初めて赤絵の技法を開発したと言われる、陶工・柿右衛門くらい、唯一無二になるくらいの力をつけないと。 

飲食店を開業するとき、将来の自分はどうなっていたいのか。志を持つことは本当に重要だよ。多店舗展開を目指すのか、それとも1店舗とか、3店舗とか自分が見れる範囲で極めた店づくりを行うのか。その志や目標が、日々の経営判断を左右していくし、最終的に自分の人生を作っていくのだから。