全社員へ2025年10月17日

80歳、90歳になっても働き続けられるか 経営者は長く働き続けられる仕組みを作ろう 

大手のファストフードチェーンやカフェチェーンで働く高齢者が増えている。週に1~2時間から勤務可能なことや、仕事が細分化されていてあれもこれもできなくていいという働き方が高齢者にマッチしているようだ。少子高齢化に伴い、働く高齢者は今後さらに増えていくことが予想される。そのとき、どのような心構えで働くべきか、思案する高齢者も少なくないのではないだろうか。雇用側も、何か特別な配慮が必要なのではないかと、高齢者の採用に二の足を踏んでいるかもしれない。 

森下社長、お互いどんな心構えが必要なのでしょうか。教えてください!  

「元気で働けて、ありがたいな」 

待遇や環境に文句を言っている場合ではない 

「べき」ということで言うと、元気で働けている高齢者は、そのことに対して「ありがたいな」って思うべきだな。待遇が悪いとか、そういうことを思っちゃいけない。元気で働けてありがたいことだなって思うようでないといけませんよっていうことだ。 

収入を得るという目的も当然あるけれど、健康管理とセットなんだよな。健康管理っていうのは精神面をひっくるめた話で、仕事がなくて1日中家に閉じこもってブラブラしてる人に比べたら、週に3日でも働けるとしたら、これは社会生活をしているわけだから本人は無意識でも脳が活性化する。「脳が活性化するような場を与えてもらえてありがたいもんだなぁ」と思わないといけない。 

その上で、毎日ほんのちょっとずつでも工夫するという観点を持って働いていたら、これは素晴らしい。高齢者の大部分は言われた通りにやっているだけじゃないかな。「ちょっとでも去年よりできることが増えた、今年はこういうことができるようになりたいな。」これが働く人たちの心構えとして必要なことだよ。 

だから、職場の環境に文句なんか言っちゃいけないよ。百姓や漁師をやっている高齢者はたくさんいるけど、自然を相手に「暑い」とか「寒い」とか、文句を言っても仕方ないだろう。その中で自分を合わせなきゃ仕方ない。冷暖房完備の環境で“保護されたい”と思うような高齢者は競争社会の中で生きていけないよ。 

これから先、“保護されたい”と考える高齢者はほとんどの職場でだんだん働くのが難しくなってくる。なぜかと言うと、高齢者が増えて子供が激減しているということは統計で分かっていることで、つまり学校が減り、飲食店が減り、洋服屋は売れなくなり、自動車も売れなくなり、会社数も減って、人手が余る時代になってくる。これは遠い未来の話じゃなくて、これから10年ぐらいの間で起こること。だから大きな流れとしては、働く環境に文句をつけるような考えになっちゃいけないってことだ。 

80歳になっても90歳になっても働けるか 

経営者は長く働ける仕組みを作れ 

飲食店は労働環境が悪くて、サービス業の中でも給料が比較的低い。結果的に、働く人も社会的弱者が多くなる。そうなるともう高齢者だろうがなんだろうが、採用していかないと生き抜いていけないよ。選んでいる場合じゃない。働ける人はなるべく来てください、という考えで手を打たないといけない。 

高齢者は反応が悪かったり、すぐ疲れたり、覚えが悪かったりして生産性が悪くなる。雇用側もボランティアではないから、生産性に合わせた賃金を払わざるを得ない。ただ、健康管理は気を遣ってあげながら、80歳になっても90歳になっても働けるような環境を提供することは大事だ。環境と言っても、冷暖房完備ということじゃない。地方に行けば高齢の百姓はたくさんいて、炎天下でも働いているじゃないか。冷暖房があることと「良い職場」であることは関係ない。寒かったら服を着て、暑かったらうちわであおぎながら働けばいいじゃないか。 

経営者がやらないといけないことは冷暖房完備ではなく、その人が10年でも20年でも働き続けられるような仕組みを作っておくということだよ。具合が悪くなったら気にしないで休めよ、とか、病気になって何カ月入院しても「退院したらまた働きに来いよ」と言える仕組みだ、「優しい」というのは表面上のことじゃない。生産性が低けりゃ低いなりの給料、だけど10年、20年と務められるような場を提供しているということが大事なんだ。 

例えば子持ちのシングルマザーがいたとするじゃないか。子供がまだ3歳とか5歳で保育園に通っている。ある日保育園から電話がかかってきて「熱が出たからすぐ引き取りに来てください」と言われたら、まだ昼間の2時だったとしても帰るしかないじゃないか。それを、職場の仲間に気を遣って行かないようだったら、親として失格だよ。だから「いつも突然、たびたび申し訳ありません」と同時に気を遣いながらも、すぐに行くということだ。職場の仲間は「お互い様だから、もう行きな」と言って送り出してやらないといけない。ときどきは、職場の人たちにタイ焼きでも買ってきて「先日はありがとうございました。おかげ様で熱も下がりました」なんて気遣いを見せれば、そうするとみんな「私らだって子供が小さい時はそうだったんだから、そんなに気を使わないでよ」ということになるよ。もし「自分は当然2時に帰れるはず」と権利を主張したり、逆に雇う側が「そんな頻繁に休まれたら迷惑だよ」なんて言ってしまったらおしまいだよ。一方は気を遣う、一方は受け入れる。こういうことが人を雇う職場の根本的な考え方だ。 

お互い様という話がある一方で、無断欠席を繰り返すような人の場合はどうするか。これは躾するしかない。この場合は黙って許してやるのは思いやりじゃない。「何を考えてんだ、あんたは!」と厳しく躾をして育てるというのが思いやりだよ。