全社員へ2025年09月03日
ドタキャン対策は、テクニックでできる。 飲食業に誇りを持って、商売しようよ。3月、4月は、新人の歓迎会や異動による送別会など、宴会が多いシーズンでもある。飲食店にとっては稼ぎ時。しかし、無断キャンセルなどを心配する飲食店経営者も多いのではないだろうか。2018年に、経済産業省が「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」を取りまとめているのだが、そこで被害額は推計で年間約2000億円に上ると報告している。飲食店は、この問題にどう対処するべきなのだろうか。森下社長は、無断キャンセルやドタキャンについて何か思うことはありますか?
ドタキャンする人は、相手を舐めている
これは、飲食店は、がまんするか、キャンセル料を取るかのどちらかしかない。俺が会社員だったとき、お客様と商談の約束をしていたのにドタキャンされたことは何度もあったけど、それでお客様に文句を言うようなことはなかった。つまり、がまんしたわけ。商談のドタキャンは、いわば勝負に負けたようなもの。相手のせいというよりはむしろ自分の問題だと思っていたからね。
でも、飲食店の予約は、これとは違う。日時を指定して、食べにいくから席を取っといてね、という約束だからね。一方的にその約束を破られたら、そりゃたまったものじゃない。用意した食材費、仕込みの人件費、予約がなければ案内できたはずのお客様分の収益の損失などの被害も実際にあるわけで、その分を請求するのは正当なこと。無銭飲食と同じで、これはもう犯罪と言ってもいいんじゃないか。
お店の経営方針としてがまんするという選択をしてもいいけれども、がまんするのは、飲食という仕事を自ら安くしているところがあるかもしれない。ドタキャンする人、無断キャンセルする人というのは、相手を舐めていると思うよ。
プライベートでも、約束を簡単にドタキャンする人には何人も会ったが、そんな人は、絶対に人のこと舐めてる。後で謝れば、ドタキャンしても許されると思っているようなところがある。でもされた方は、許してない。もう一度ドタキャンされたら、付き合い自体を考えるよな。それと同じだよ。
だから、キャンセル料を堂々と取る店がもっと増えた方がいいと俺は思うよ。キャンセル料を取ることが当たり前になればドタキャンや無断キャンセルは減るんじゃないかな。お店としてのキャンセルポリシーを決めて、それを予約の時に伝え、後は粛々と対応すればいいだけなんだから。高飛車だなんて思う必要は全くないよ。
ドタキャンをよくする人は、相手の時間を奪っていることや、信頼を裏切っていることに気がついてないという人が多い。根っから悪い人というわけでもなかったりするから、次に会ったとき、この間はごめんなさいと謝ってきたりする人もいるんだけど、ドタキャンされた方は、その時は、「ああ、いいよいいよ」なんて返したとしても、内心では、二度と誘わないと思っていたりするものだ。ドタキャンした方は、これで許されたと思うから、また同じことを軽い気持ちでしてしまう。ドタキャンのせいで、自分の信用がなくなっているなんて思ってもいない。次第に仲間が減って行くが、それがドタキャンのせいだと気が付かない。
困るのは、それがかわいい女の子だったりすると、男は「しょうがないなー」とか言ってしまうから、さらに助長していく。辛辣に言う人がいないから、このかわいい子はどんどん不幸になっていく。一生不幸だ。
俺は、それを見兼ねて「お前、人生を捨てていることに気が付いてないんじゃないか」と言ったことがある。でもドタキャン癖はすぐには治らなかったよ。その後も会う度に言い続けたら、60歳を過ぎたくらいで、ようやくドタキャンしなくなったよ。

ドタキャンは自己中心的行為
ドタキャンという行為は、そもそも自己中心的だよな。自分の都合だけを優先させて、相手のことを全く考えていない。
「自己中」な人は、社会では生きていけない。信用を無くして落ちこぼれていくのは当然だ。以前、日経新聞で東洋紡の坂元社長がこんなことを言っていた。
「強い会社には変化への対応力がある。外部環境の変化を見極めて経営のバランスをとる必要がある。変化しなくてはやっていけないのだから、真面目なだけの不器用な若者は仕事がない。生き残るには会社も変化するし、社員も変化しなければ落ちこぼれる」というような内容だった。
俺は、「真面目なだけで不器用な若者」というのも実は「自己中」だと思うんだよ。人に合わせること、社会に合わせることができないということだからな。
そんな自己中な若者たちは、就職でつまづき、会社に入ってつまづく。上司が認めてくれない、お客様がわかってくれないと言ったりしてね。でも、その前に、お前は会社が求めているものを提供しているのか、お客様のニーズに答えているのか、と聞くと何もできていなかったりするんだよ。もう自ら自己中を証明しているようなものだよ。自分ができてないこと、やっていないことを差し置いて、全部を人のせいにしちゃうのだから。
でもこの手の人は、相手のことを考えないのではなくて、考えられない人なんじゃないかなと思うことがある。俺は、粘土細工がまったくできない。実物がそこにあってもダメ。見た通りに作ればいいんだよなんて言われても、それができない。センスがないというか、資質がない。これと同じで、他人を気遣うことがそもそもできないという人なんじゃないかなと思う。
普通は、特に教えられなくてもある程度の気遣いはできるようになるものだ。自分がひどい目に遭って慰められた時など、相手のことも考えなきゃなと思うようなできごとは、誰でも何度かは経験しているものだよ。それでも体得できていないと言うことは、もうその人間は、そういう資質の人なのではないかと思うわけ。だから40歳になっても、自己中でドタキャンする人は、これは治らんよ。
人は変えられないけど、対策はできる
気遣いができることと、コミュニケーション能力が高いことは、かなり似ていると思う。例えば取引先と商談をする時には、相手に大事なことを伝えることが第一だけど、そんな言い方したら相手が混乱しちゃうよ、と思ったことが何度かある。その時は、もっとコミュニケーション能力を鍛えろと言うんだけど、これは相手のことを考えられてないせいでもあるよな。こう言うと相手がどう思うかを考えて商談できる人は、取引先をその気にさせていくコミュニケーションができる。
女房の母親の付き添いで、ケアセンターに行ったことがある。そこに来ている高齢者の多くは認知症なので、会話がトンチンカンなんだけど、俺は彼らとのコミュニケーションが得意だ。
「俺は焼津の漁師の生まれで、子供の時から新鮮なイワシを毎日食ってた」と言うじいさんがいた。俺がいた1時間ぐらいの間に、その話を3回もした。だから、4度目の時、「俺は焼津の生まれでよ」とそのじいさんが言った時、「知ってるよ。漁師のせがれでしょ、もしかするとイワシが大好きでしょ」と言うと、なんでわかるんだよと驚くわけ。「俺はね、顔見りゃわかるんだよ」と言うと、しきりに感動する。
するとそれを聞いていた別のお年寄りが俺を指さして「この人悪い人だよ、冗談ばかり」と言って大笑いしたりする。俺の場合は、コミュニケーションが上手と言うより、単細胞なだけなんだけど、みんなが笑顔になるコミュニケーションを心がけることは、コミュニケーション上手になる秘訣だと思っている。相手の気持ちを想像しないとできないことだからね。
飲食店の話に戻すと、お店側は予約を受けたら、お客様の気持ちを考えて、楽しい時間が過ごせるように準備することが大切だよね。お店とお客様の約束なのだから。その約束を反故にされたら、それはけじめをつけるのは当然だよ。旅館やホテルの予約はキャンセル料は当たり前でしょ。それはその日、その時の予約はそこでしか売れない、在庫を持ち越せないビジネスだからなんだけど、それは飲食店も同じだよ。
ドタキャンする人の性格や人間性を変えることはできないけど、キャンセル対策はテクニックでできる。繰り返すけど、キャンセルポリシーを明示して、予約時にも伝えて、あとはそれに沿って粛々と対応すればいいだけなのだから。キャンセル料を取る事ができないのは、飲食業を自分で低い商売だと思っちゃってるからじゃないかなと思うよ。誇りを持って、堂々と商売しようよ。